離陸で考える@垂直離陸講習会から

稽古関係者向けのブログに投稿した内容ですが、こっちにも書きます。


先日、甲野先生の最新の気づき「後ろから吸い込まれるような感じ」での『正面の斬り』を受ける機会があった。
触れたときにはもう崩されているのだけれど、強引に押し込まれた感触ではなくむしろ先生はひっついているだけのような感触。
崩される過程の中、ずーっと接触面にぴったりとついて来られる。
この技を受けた後で伝わってきた感触を思い返しながら(これは離陸だ!)と思った。

なぜこのように感じたのか考えていたら、何度か受けている中島先生の垂直離陸講習会での説明が思い浮かんだ。
そして『離陸』でほとんどの技が説明出来るような気がしてきたのだ。
ここで断っておかなければいけないのは、『説明出来る』というのは『技が出来る』わけでも『技の原理を完璧に理解出来る』わけでもない。
あくまで『私が稽古する上で、技を解釈する手がかりに利用出来る』という意味だ。

中島先生の説明によれば『離陸』とは”力の拮抗状態”のこと。
拮抗するのは相手と自分ではなく、自分の中での拮抗状態である。
代表的な『足裏の垂直離陸』では、足をあげようとする上方向と、重力による下方向の”力の拮抗状態”を作る。
これが足裏に『離陸』がかかった状態である。
見た目に同じだからと言って、何もせずに立っているのは『離陸』の状態ではない。

この『離陸』は足裏にかぎらず手や腕などどこにでもかけることが出来る。
同じく中島先生が垂直離陸講座で説明する『どこでも離陸』のことだ。
たとえば『手のひらの離陸』では手のひらに動作方向(押す方向)と逆向き(引く方向)の”力の拮抗状態”を作り出しながら相手に触れる。
こうして触れられた時の感触は、実際には押されているのに、押されていないような不思議な感触で、何となく抵抗が出来ずに崩されてしまう。
掴んで引く動作のときは、相手の腕を掴む方向の力と逆向き(手のひらを開く方向)の”力の拮抗状態”を作り出しながら腕を引く。
するとやはり相手は抵抗が出来ずに崩されてしまう。
このように”力の拮抗状態”を考えると、他にも色々と思い浮かぶ。
・自分が腕を掴まれた場合は腕の内側の方向
・腕相撲で負けた状態から開始位置に戻す場合では負ける方向
・手刀の形で斬り落とす場合は引き上げる方向

実際の『離陸』の稽古では”力の拮抗状態”を作り出すのにわざと力んた状態を作り出す。
この為、はじめて説明を聞いたりやってみたりしたときは(こんなしんどい技なの?!)とか(これはさすがに違うんじゃないの?!)とか心配になったりするが、
力むのは『離陸』の状態を比較的簡単に作り出す為であって、慣れてくれば意識して力む必要はない。

ここからは教わったことに加えて私の勝手な解釈が含まれてくるのでその当たりを注意して読んで下さい。
技とその説明については99%が教わったものなので、そのあたり(この人なんでこんなことがわかるの?)とかは、(教わった事を自分なりにまとめているのね)と適宜解釈してください。

はじめに言葉の定義。
『力む離陸』は”ギリギリと力がせめぎあっている状態”と説明されることがあるので、
ここでは『ギリギリ離陸』とします。
対する『力まない離陸』は、技を受けた感触がふわふわしているので、
『ふわふわ離陸』とします。
筋肉痛になってしまう『ギリギリ離陸』ではなく、はじめから『ふわふわ離陸』が稽古出来ればいいのだけれどそう簡単な話ではない。
『ギリギリ離陸』の稽古は、いわば闇夜の灯台のようなもので、(少なくとも私は)これがないとどのように稽古したら良いのか見当がつかないのだ。

この『ギリギリ離陸』を稽古すると『離陸』の状態とはどのようなものかが体感出来る。
これを体感すると『ふわふわ離陸』が『ギリギリ離陸』を手がかりに理解できるようになってくる。
では『ふわふわ離陸』とはどのようなものだろうか。
『離陸とは拮抗状態である』という説明に従って動くと、相手が受ける接触面の感触が『押されもせず引かれもしない』状態になる。
また『足裏の垂直離陸歩法』で”平起平落”と説明されているように、接触面の圧力に偏りがなくなる。
余談だが、以前、甲野先生にリクエストして『足裏の垂直離陸歩法』で私の手の甲を踏みながら歩いてもらった事があるが、その圧力は先生の足が乗ってから離れるまで終始均等であった。

『ふわふわ離陸』に必要なものは大きく2点。
・接触面が押しもせず引かれもしない。
・接触面の圧力に偏りがない。
実はこれ『ギリギリ離陸』でも同じである。
つまり『ギリギリ離陸』から上記の要素を残して、”力み”を抜いたものが『ふわふわ離陸』であると考えられる。
この『ふわふわ離陸』を手がかりにすると色々な技について、
稽古の手がかりが見えてくる。

1つ1つの技についてこれが本当に当てはまるかどうかわからないけれど、
例えば『振り払おうとする相手の腕を掴んで崩す』技では、
甲野先生が”ぴったりとくっつくように(ドアノブを回すくらいの感覚で)掴む”という説明をされていたが、
この技は『ふわふわ離陸』に必要な2点を手がかりに稽古できそうだ。

甲野先生の最新の気づき@正面の斬りも体全体で前後の拮抗状態を生み出し、
相手との接触面に『ふわふわ離陸』の状態を作り出すと考えれば、
(喩え甲野先生の動きと全然違ったとしても)ずいぶん稽古に手がかりが見えてくる。

というわけでしばらくの間、『離陸』を手がかりに稽古を続けてみようと思います。
『離陸』は楽しい!!

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