イメージの力『雪庇落し』『雪崩返し』

甲野先生の投げ技に名前がついた。
技に名前をつけてもらえると稽古する側としてはありがたい。名前から技の感覚が甦るし、稽古相手とも感覚を共有できる。


今回名前がついたのは、綾瀬で受けた相手が襟をもったところからいきなり捨て身に返される技と、相四つに組んだところから釣り手でかける浮き落としのように投げられる技の2つだ。


前者は『雪崩返し』。
甲野先生が説明されていた、崖から車があちこちにぶつかりながら落ちる内観を一言で言い表している。また『雪崩』という言葉から相手も自分も巻き込まれるイメージが湧くため、相手にたいして何かしてやろうという気配が出にくくなる。


この技の名前は、わたしも先生に依頼されていくつか挙げていたが採用されなくて良かった。
ちなみに、わたしの出した案は『襟返し』『稲妻返し』『爆竹返し』の3つ。後ろの2つは受けた側の衝撃は表したつもりだったが、かける側の感覚を表せていない。


後者は『雪庇落し』。
『雪庇(せっぴ)』とは雪山の尾根付近などで、雪が風下方向にせりだして積もって出来るもので、下に地面がないのでいつ崩れるかわからない雪の塊のことである。屋根に積もった雪が屋根の傾斜によってせりだした部分も雪庇と呼ぶが、この技は雪山にできる雪庇をさす。
こちらの技の名前も、釣り手側の脇下にある空間が落ちる感覚(のちに吸い込まれる感覚に変化)を一言で言い表している。大丈夫と思って歩いていた地面が実は『雪庇』で、突然踏み外して落ちていく感覚で技に入る。


甲野先生は『内観』という言葉を使われているが、馴染みやすい名前を使うなら『イメージ』だ。

雪庇のイメージで技に入ると相手にも自分にも何かしようとするのではなく、自分も被害者、相手も被害者の感覚になるので、気配が捉えにくい。

イメージによって技の質も変化する。
当初、甲野先生は『雪庇落し』を『脇下の空間が落ちるイメージ』で説明されていたが、このイメージを作るための準備には時間がかかる。想像するのに手順を踏むからだ。
その後、『脇下に空間の歪みが発生してそこに吸い込まれるイメージ』に代わって準備にかかる時間が減り、威力も上がった。
さらに、『アクション映画などで飛行中の旅客機での銃撃シーンで、窓ガラスが割れた瞬間、気圧の変化で空気や物が外に飛び出していくイメージ』に変わるとさらに準備期間がいらなくなった。
ピストルで撃つシーンをイメージすれば後は自動的に発動するからだ。
甲野先生はこのイメージを表すために『雪庇落し』と命名されたのだ。
雪を踏み抜いてしまったら、あとは自動で落ちるというわけだ。



イメージによりパフォーマンスがかわると言われれば、当然だと思われるかもしれないが、動きの種類とイメージを合わせるとその効果は大きく上がる。
例えば柔らかく動きたいからといっていつでもこんにゃくをイメージすればいいわけではない。
相手に逆らわないイメージなら『風見鶏』や『キャスター』をイメージしたほうが動きやすい(これらも甲野先生の説明によるもの)。



さて『空気投げ』のイメージは『球』たまが、どうイメージするかが問題だ。
相手と二人で球になるイメージも良さそうだが、相手を球として自分はその表面を撫でるイメージか、接点のある平面になるイメージも面白そうだ。

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