甲野善紀先生の棒手裏剣講座に参加しました

甲野善紀先生が松聲館を立ち上げたのが45年前。
数々の稽古会や講座があったが手裏剣に特化した講座は今回が初めてとのこと。
もちろん私も初めて。主宰である菅さんの開催案内のツイートを目にしてたつぎの瞬間、申しこんでいました。

当日。
座学と実演ということでどんな話が聞けるのかと楽しみにしていましたが、かれこれ15年以上様々な講座に参加してメールマガジンの撮影でも先生と会話してきた私も初めて聞く話もあって、大満足の講座でした。

3時間の講座ですのでとても全ては書ききれませんが印象に残ったものをいくつか紹介します。様々な話をうかがったのでここに書くのはほんの一部です。
私のメモと記憶を頼りに書いているので正確ではない点はご了承ください。

甲野先生の手裏剣術の師匠は根岸流4代目の前田勇先生。
実戦で手裏剣をつかった最後の人とも言われています。甲野先生が持参した当時の読売新聞の記事のコピーには、戦時中、手榴弾を持った相手に手裏剣で対抗して見事命中させたとありました。

意外にも甲野先生は前田先生から技術的なことはあまり教わらなかったそうです。
というのも前田先生に技術的な質問をしても『剣には触れない』などという回答が返ってくるばかりで何のことかわからず早々に聞くのはやめたとのこと。

前田先生の性格が伺われるエピソードとして床一面に手裏剣が転がっていたとか、庭の上木鉢の土に手裏剣がたくさん埋もれていたとか、根岸流の手裏剣は前重心に調整するため、手裏剣の後ろを細くして糸を巻くが、この作業を前田先生は麻紐をぐるぐる巻くとニスを入れた壺にズボッと突っ込んでそのまま素手でにちゃにちゃと握って纏めていたというものがありました。
このあたり私は話を聞きながら床一面にものが散乱しているのは甲野先生も似た面がある一方で、もの作りの緻密さと凝り性な面には相当差があるなぁと感じておりました。

技術的な話では、前田先生はいわゆる卍の形で手裏剣は打たなかったそうです。これは前田先生言ったのか甲野先生が思ったのか聞き逃してしまいましたが、卍の形で打つと肺を悪くするというのでやらなかったそうです。
このあたりの感覚は独特なものがありますね。

甲野先生は根岸流を継いではいませんが前田先生から段位をもらっています。
この段位の与えかたにも前田先生の性格が現れているのか何ともユニークで面白いので紹介しておきます。
甲野先生は前田先生から5段、6段、7段を授与されており、最終段位は7段です。
5段
京都の手拭いを包んだ紙に甲野善紀5段と書いてあった
6段
前田先生のところにいくと甲野善紀6段という紙が貼ってあった
7段
前田先生からいただいた手紙の宛名に甲野善紀7段と書いてあった


この他にも手裏剣本の紹介や松野女之助らの手裏剣に関連した達人エピソード、甲野先生が持参した様々な棒手裏剣紹介や作り方、焼き戻しの温度など私がついていけない深い話までたっぷり堪能しました。

甲野先生が手裏剣をやる理由は体の動きを練るのに良いからだといいます。
うねり系の打ち方は高速に打てるが気配が出る。この気配を出さないで出来ないかというのをテーマにしている。
剣を飛ばさないつもりで飛ばすということになるがこれが難しい。
右手に手裏剣を持ち、左手で右手を剣のように持ち、左手だけを使って振り下ろすようにして打つと感触としては理想的な打剣になるが、これを片手で実現しようとすればなんとも弱々しい威力の打剣になってしまうという。
私がやる手裏剣も甲野先生の影響を受けてか、なるべく軽く、速く、強くを目指している。このあたり先生の手裏剣術からもますます目が離せない。

実演もたっぷりと見ることができたが中でも瀧入り(たきいり)という打法は小さなモーションで大きな力を発揮する打法で、私が手裏剣でやっている自身の重心移動のエネルギーを剣に伝える『謙譲の美徳』をつかう打法に近いものを感じて、是非今度また練習してみたいと感じた。

この日は世話人で自身も棒手裏剣稽古会を主催する菅さんの仕切りと参加者への心配りもあって、甲野先生四条初の手裏剣に特化した講座は大成功に終わった。

個人的には他にも数年ぶりにお会いしてお話しできたかたや、太極拳の達人を目指すかたと技を探究する話で盛り上がったりして最後まで楽しい時間を過ごすことができた。

甲野先生、世話人の菅さん、参加者の皆さんありがとうございました!




この講座でもいくつか聞くことができた達人エピソードは私の大好物ですが、なんとこれらの話を纏めた本「神技の系譜」が出ています。
甲野先生は数多くの本を出されていて私も何冊も読んでいますがこれは超おすすめの1冊です。ぜひご覧ください!!


コメント